◆地図と空中写真

　日々、変貌していくまちの姿。日常のくらしの中で、私たちはそれをぼんやりと眺め、そしていつのまにか昔の風景を忘れてしまいます。

　地図や空中写真は、さまざまな学問分野において過去の歴史を知り、将来の社会を展望していくための基礎的な学術資料です。中山修一が長岡京の存在を確信し、条坊復元図のベースマップとした大正11年(1922)測図、大正14年製版の京都市都市計画基本図は、3,000分の１という大きな縮尺の地図(63図幅)で、当時の集落や耕地・道路・畦畔、地名などがつぶさにわかる貴重なものです。

　自然や地形を、さらに客観的にみることができるのが、空中写真です。私たちが広く利用できる最も古いものは、戦後まもなく米軍によって撮影されたものですが、地方公共団体が地図制作・都市計画・課税などの資料とする目的で、独自に撮影した空中写真は、身近で大切なまちの履歴書といってよいでしょう。平成4年(1992)、市制施行20周年にあたり長岡京市教育委員会が発行した『空からの散歩』は、新旧の空中写真と地図がふんだんに盛り込まれた価値ある１冊です。

　◆1959年撮影の長岡町空中写真

　『空からの散歩』が刊行された後、昭和34年(1959)10月1日撮影の空中写真3ロール(74カット)が、思いがけず発見されました(もと広報公聴係保管)。新神足村・海印寺村・乙訓村の３ヵ村が合併して長岡町が誕生したのが昭和24年ですから、この空中写真は町制施行10年を迎えるにあたり、町内全域を1万分の１の高精細画像で撮影したものと考えられます。したがって今年は長岡町誕生70年の記念の年で、空中写真は60年前のまちの姿ということになります。昭和34年5月には「長岡町報」第1号も発刊されていますので、激増する新住民とともに、新しいまちづくりを目指す意気込みに沸いていたことでしょう。当時の人口は１万3,600人。新神足村役場を転用した町役場から、開田への新築移転を翌々年に控えていました。

　この空中写真の中から、長岡京跡や史跡の調査・保存という観点でセレクトしたカットを紹介しましょう。

 　➀は阪急西向日周辺を写したもので、舌状をした向日丘陵先端の輪郭がはっきりとわかります。阪急西向日駅の西北部に注目してみると、宅地造成工事がどんどん進んでいます。昭和30年に会昌門の跡が発見され、脚光を浴びたものの、長岡京発掘の展開は全く見通しがありませんでした。しかし、昭和34年、古代建築史の権威者福山敏男が京都大学の教授として帰ってきたことをきっかけに、向日町鶏冠井荒内・大極殿地区の発掘(阪急電鉄の費用負担)ができることになり、昭和34年4月初旬、調査が始まります。それから10日たった皇太子ご成婚の日、突然「ブルドーザーのキャタビラがガリガリとなり」、待望の大極殿跡への糸口へ。この空中写真は昭和34年10月24日撮影ですので、いよいよ宮の中枢に迫ろうと高揚する長岡京発掘の瞬間を写しているのです(大極殿の本格的な調査は、昭和36年に実施)。

　②は新京阪長岡天神駅(阪急)付近で、中山修一が条坊復元の根拠とした方格地割が一面に広がっています。国鉄神足駅(JR長岡京駅)と八条ヶ池を結ぶラインは長岡町の横軸で、このあと一挙に都市化が進みます。長岡京跡を対象とした発掘が行われるようになったのは昭和50年代半ばから。以後長岡京調査の最前線となっています。

　③は勝龍寺城跡付近です。公園に整備される前の堀や土塁、それを大きく取り囲む神足の外郭土塁のようすがよくわかります。今ではすっかり住宅のなかに埋没してしまいましたが、周りを見晴らす戦国時代の堂々とした構えに魅了され、繰り返し見入ってしまいます。

ー参考文献－

・『長岡京市史』資料編三　1993年

・『空からの散歩』　長岡京市教育委員会　1992年

・福山敏夫・中山修一・高橋徹・浪貝毅『長岡京発掘』NHKブックス74　1968年