◆三思一言◆◆◆ つれづれに長岡天満宮(29) 2020.01.10
◆西和夫による桂宮関連建築の研究
長岡天満宮研究の端緒は、建築史の西和夫による「開田御茶屋」に関するものです。「開田御茶屋」は、八条宮邸で初代智仁親王が細川幽斎から古今伝授を受けた建物を、二代智忠親王が開田天満宮に移したもので、以後宮家では「古今相伝」の家にとっては「格別」の由緒として、大切にしました。西和夫は長岡天満宮に伝来する古記録の写しと、熊本水前寺成趣園に保存されている「古今伝授の間」の精緻な検討を行い、この建物が開田から移されたものにまちがいないと論じたのです。
そのことは2009年から2年をかけて取り組まれた「古今伝授の間」解体修理工事ではっきりと証明されました。報告書では、関連史料の調査と研究史をふまえた精緻な考察がなされています。
◆『長岡京市史』編さん事業の調査
1985年から実施された『長岡京市史』編さん事業では、建築・歴史・美術・石造物の分野で、初めての本格的な総合調査が行われ、資料を広く利用できるようになりました。また、長岡天満宮の祝詞師を務めた石原家(開田)の古文書が発見されたことも、長岡天満宮の理解のために大きな意義をもちます。
特筆すべきは、地元の調査と併行して「桂宮日記」(元禄元年~明治19 宮内庁書陵部蔵)全冊の検索を行ったことです。これにより江戸時代における桂宮家領開田村の支配や長岡天満宮奉斎のようすを系統的・網羅的に知ることができるようになりました。
◆長岡天満宮による御神忌千百年の事業
長岡天満宮では、平成14年(2002)3月23日~4月1日の10日間にわたり、菅公御神忌千百年大萬燈祭が挙行されました。平成8年の実行員会結成から平成17年まで、境内の整備や祭事のすべての動きが「記念誌」にまとめられています。長岡天満宮では記念事業の一環として、上田正昭ほか学識経験者による『長岡天満宮史』の刊行を図り、将来への展望としました。また祭儀は古式に則ったものとし、その根拠とした「享和二年長岡天満宮九百年御神忌雑記」の全文を翻刻した冊子も刊行されています。
◆京都府教育委員会による建造物調査
建造物は、京都府教育委員会による近代和風建築調査のなかで、「長岡天満宮の社殿は、図らずも3世代に渡る建築家或いは技手が設計に関与した建造物が集まり、複合的な近代の神社境内空間をなしている。小規模な建造物が多いが、歴史的な価値、造形上の質において高い価値を持ち、近代京都の神社中において独自の意義を持つ境内空間といえる」と高く評価されました。
その後、平安神宮が重要文化財となったのを契機に、本殿(平安神宮の旧本殿)が、京都府の指定文化財となり、さらに平成24年、長岡京市教育委員会が祝詞舎・透塀・八幡宮社・春日神社・社務所・手水舎の調査を実施し、市の指定文化財となっています。
◆長岡京市教育委員会による資料調査
長岡天満宮では、御神忌千百年事業のなかで社宝に対する認識が高まり、未調査の古文書・写真・図面や絵馬等の存在が明らかにまりました。長岡京市教育委員会ではこれをうけ、平成19年度から5か年計画の継続調査を実施しました。古文書類は7000.点に及び、今後各分野の基礎資料として大切に活用されていくことでしょう。
美術調査では智忠親王奉納の歌仙額、霊元上皇奉納の和歌額を始め、絵馬や釣灯籠の調査が精力的に取り組まれました。天文7年(1538)に中小路宗綱奉納の「太政威徳天縁起」絵巻6巻(フランス国立ギメ東洋美術館蔵)の全貌が紹介されたことも大きな成果です。長岡天満宮所蔵の資料の一つ一つから、宮家から庶民まで多くの人々に浸透した天神信仰の豊かさ・広がりを、あらためて深く感じることができます。
№ | 調査の内容 | 参考文献 |
1 | 西和夫による「開田御茶屋」史料調査 | 西和夫「古今伝授の間と八条宮開田御茶屋」『建築史学』第1号 1083 |
2 | 『長岡京市史』古文書調査 | 『長岡京市史』資料編二 1992 |
『長岡京市史』石原義胤家文書調査 | 『長岡京市史』資料編二 1992 | |
3 | 『長岡京市史』美術調査 | 『長岡京市史』建築・美術編 1994 |
4 | 『長岡京市史』建築調査 | 『長岡京市史』建築・美術編 1994 |
5 | 『長岡京市史』石造物調査 | 『長岡京市史』建築・美術編 1994 |
6 | 『長岡天満宮史』調査 | ・『長岡天満宮史』2002 ・『享和二年長尾天満宮九百年御神忌雑記』2003 ・『菅公千百年大萬燈祭記念誌』2005 |
7 | 「古今伝授の間」修理関連調査 | 『古今伝授の間修理工事報告書』 京都伝統建築技術協会 2011 |
8 | 京都府近代和風建築調査 | 『京都府の近代和風建築』 京都府教育委員会 2009 |
9 | 京都府指定文化財<本殿>調査 | 『京都の文化財』第29集 京都府教育委員会 2011 |
10 | 長岡京市による美術調査 | 『長岡天満宮資料調査報告書』美術・中世編 長岡京市教育委員会 2012 |
⒒ | 長岡京市による金工品調査 | 同上 |
12 | ギメ美術館本「太政威徳天縁起絵巻」<写真>調査 | 同上 |
13 | 長岡京市による古文書調査 | 『長岡天満宮資料調査報告書』古文書編 長岡京市教育委員会 2014 |
14 | 長岡京市指定文化財<祝詞舎ほか>建築調査 | ー |